2013年2月14日、栃木県栃木市のNPO法人海がめに出張当事者研究に行ってきました。
海がめさんでは、就労継続支援B型事業所「スイーツ海がめ」としての活動とともに、当事者研究も熱心に行われています。ピアリンクとは以前から交流があり、伊勢崎での当事者研究会にも何度も足を運んでいただいています。
以前から招待を受けていましたが、今回ようやく出張当事者研究会が実現しました。
当日はバレンタインということで、さっそくスイーツでおもてなしを受けました。自慢のチョコプリンをいただき、休憩時間には立派な厨房の中も見せていただきました。
ちなみに「海がめ」という名前は、TVのドキュメンタリー番組が由来だそうです。その番組では、卵からふ化した子ガメたちが海へはって行く途中に砂浜のわだちにはまり、はい上がれずに命を落としてしまいました。その子ガメの姿が、障がいのために思うように生きられない自分たちの姿と重なって見えたため、バリアフリーな砂浜=障がいに理解のある社会になってほしいという願いを込めて命名したそうです。
参加者のなかには当事者研究にまだ慣れていない方もいらっしゃるようなので、午前の部はまず当事者研究に親しんでもらうためのお茶会をしました。
「当事者研究とは何?」ということで、ふだん使っているプリントを配って読み合わせを行いました。それから、自己病名について話し合いながら、当事者研究の用語をすこしずつ説明してきます。
自己病名をお持ちの方には、自分の自己病名を発表してもらいました。そこから「お客さん」や「幻聴さん」とはどんなものなのか、ピアリンクのメンバーも入り交じって話します。たくさんの自己病名が挙げられたので、それだけで盛りだくさんの話し合いとなりました。
その後、海がめのスタッフの方から「どうしたら弱さの情報公開が上手にできるようになるか?」という質問が出たので、これをテーマにすこし意見を出し合いました。
「情報公開しにくい理由はありますか?」という問いかけから、「自分の病気のことを話すのは恥ずかしいから」「重たい話をしたら迷惑なんじゃないか」といった反応が出てきました。逆転の発想からヒントが見えてくるところが、とても当事者研究らしいなと思いました。
午後は2つのテーマで当事者研究を行いました。はじめはOさんの「社員さんの残業の頼みを断る」練習です。
Oさんは病気を公開せずに、パートで週5日の仕事を続けています。最近は仕事にも慣れてきているそうですが、社員さんから休日出勤や残業を頼まれて困っているそうです。
「休みの日は海がめに行きたいのに、当たり前のようになっているのが嫌」「残業すると疲れてしまう」ということでした。
しかし社員さんに話しかけられると緊張して頭が真っ白になってしまい、つい「はい」と答えてしまい、仕事が伸びてしまうそうです。
そこで、ロールプレイで残業の断り方を練習することになりました。
「顔を見て話せていた」
「はっきり理由を伝えていた」
「申し訳なさそうなところがよかった」
練習してみると、Oさんはとても上手に断ることができることが分かりました。仲間からの応援を受けて、Oさんも今度は伝えてみたいとのことでした。
2つ目はAさんの「爆発依存と幻聴さんとの付き合い方」の研究です。
Aさんは、日々のストレスで容量オーバーになると幻聴さんがやってきます。
はじめは「家から出るな、誰とも連絡をとるな」という声がして、ひきこもりに入ります。自暴自棄になって、何もかも嫌になってくるそうです。
そのうちに「逃亡してしまえ」という幻聴さんがやってきます。幻聴さんに従って逃亡すると解放された気分になりますが、人間関係がダメになるというデメリットがあることも実験の結果確認しているそうです。また「薬を大量に飲め」「自分を傷つけてしまえ」という幻聴さんも来るそうです。
これまでの研究の結果として、逃亡や自傷で自分助けをしていることや、本当は逃亡したくないこと、友だちと連絡を取りたい気持ちがあることが分かったそうです。
今回は、新しい助け方のアイディアをもらいました。
・皆に「明日逃亡しそうかも」と伝える
・逃亡のサインを決める
・ノートに書いて幻聴さんと対話する
・「心配してくれてありがとう」と幻聴さんに伝える
といった技を、今後は試してみるということでした。
お二人とも以前から海がめで研究をしていらっしゃるそうで、研究的な考え方が自然に身についているように感じました。ぜひこれからも研究を通して、つながっていけたらいいなと思います。