第12回当事者研究会の様子

おかげさまでピアリンクは今回、ちょうど1周年を迎えることができました!

ボリューム満点、みんなの思いが語られているPeer Link Times第2号も発行されました。

みなさん、今年度もどうぞよろしくお願いします。

 

午前の部


この日のウォーミングアップは、名前、今日の気分体調、今日の自己病名でした。

みんな自分の番が回ってくるまでに、その日の自己病名を考え出さなければならないので、朝から頭がユーモアモードに切り替わって、とても楽しいですよね。

 

まずは向谷地さんのアメリカ行航空券1日遅れ事件の話から。

ふつうに考えれば、金銭的にも精神的に深刻なダメージなわけですけど、当事者研究をやっている人ならみんな経験があると思いますが、「ああ~、やっちゃった!」と思う失敗(弱さ)が大きければ大きいほど、ネタにしてみんなに曝け出して笑いに変えてしまうと、あっと言う間にみんなとつながるツールになるんですよね。けっこうな痛手だったと思いますが、まさに当事者研究が生活の中で実践されているなあ、と思わせてくれるようなストーリーを披露してくれました。

 

 

 

次に浦河の説明や医療の現状、当事者研究の紹介で、特に当事者研究用語について、ヴィトゲンシュタインの「言葉の限界は、思考の限界である」(べてるの家のメールマガジン「ホップステップだうん!」Vol.001に関連記事が掲載されています)という言葉を用いながら、言葉の持つ力をみんなで考えました。

 

病気の世界を「幻聴さん」「お客さん」などべてるの当事者研究用語を用いて、仲間が自分の苦労を自分の言葉で語ることによって、みんなに情報を公開し、豊かな病気の世界を共有することができるようになります。当事者研究をするにあたって、言葉はとても大事な要素となります。

 

参加者から、「言葉の意味はわかっているのだけど、ただの言葉としてきれいに聞こえてくるだけだったものが、他の人の語りを聴いて、体でわかるというような感覚があった」というようなコメントが出ました。

 

「腑に落ちる」という言葉があるように、言葉を耳にしたときに身体感覚に何かピーンとくる経験がみなさんもありませんか?吉本隆明も自身の著書で『「内臓の言葉」は第二の言語である』と言っています。

 

言葉を聴いたときに、心にグッとくるような、また幻聴さんやお客さんにもしっかり納得してもらえるような、自分自身にしっくりくる言葉を、今までにべてるの家で培われてきた言葉とともにこれからもみんなで見つけて、言葉の力を生かしながらみんなの笑いとユーモアの力を増々パワーアップさせていきたいものですね!

 

 

午後の部


午後の部は参加者のライブ研究を行いました。一人目は「統合失調症 人前緊張声ふるえ型 自意識過剰症候群」のOさんです。(以前の発表はこちら


研究発表をすることについて、「人前で発表をするのは緊張して苦手だけど、この前に話してから自信がついてきました。発表をした後はすごく気持ちいいです」と語られていました。


Oさんは半年前から会社に勤めています。お弁当の製造の仕事を週5日しているそうです。病気のことは会社には伝えずに働いています。


そんな現在の苦労は「社員さんと緊張してうまく話せない」ことです。パートさん同士では大丈夫なのですが、社員さんに対しては「もっと早く仕事しなくちゃ」などのお客さんが来て、緊張してしまうそうです。


「Oさんが社員さんに伝えたいこと」を聞いてみると、「朝出勤して、自分が調理する食材が冷蔵庫にないとき、どうすればよいか?」という具体的なテーマが出てきました。


せっかくよいテーマが出たので、ロールプレイで社員さんへの伝え方を練習してみることになりました。「実際に社員さんと応対するよりも緊張した」そうなので、とってもいい練習になったと思います。これからの仕事の中で実践して、その結果報告を聞くことができると嬉しいです。

 

二人目は「前向き症候群空回りタイプ」のKさんです。「常にポジティブでいなくては、下を向いちゃいけない」と自分を追い込んで、悲しみを見ないようにして頑張るのだけれど空回りしてしまう苦労を持っているそうです。


そんなKさんは先日、震災の被災者支援の集会に参加したときにとても怒ってしまったそうです。


Kさんにとってのキーワードは「自立」でした。

 

研究をしていくと、障害者手帳が最近三級から二級になったという出来事が話に上がりました。自分では回復していたつもりなのに等級が上がったことに、Kさんは実はとても傷ついていたようでした。


勉強をして仕事に就いて、自立していくことをKさんも目指しているけれどなかなか上手くいかず苦労しているそうです。自立しろと言われても自立できない人もいる。そんななかで、被災者への自立についての話についケンカを売ってしまったそうです。


自立について悩んでいる参加者も多く、さまざまな感想が語られました。「いろいろ共感してもらえて驚いた、うれしかった」というKさんの感想でした。

 

当事者研究会の終了後、スタッフでピアリンクの総会を開催しました。1年間の苦労賞をしたり、これからどんな会にしていくかミーティングをしました。ふだんは聞けないメンバーの思いを聞くことができたのが良かったです。